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富山地方裁判所 昭和55年(わ)74号 決定

被告人

北野宏

被告人

宮〓知子

右両名に対する各みのしろ金目的拐取、殺人、死体遺棄被告事件について、両名の各弁護人及び富山地方検察庁検察官から関連事件審判併合請求があつたので、当裁判所は、関係各当事者の意見を検討し、次のとおり決定する。

主文

一、本件に、長野地方裁判所に係属中の被告人両名に対する同庁昭和五五年(わ)第七五号各みのしろ金目的拐取、殺人、死体遺棄、拐取者みのしろ金要求被告事件を併合して審判する。

二、検察官の本件請求はいずれもこれを却下する。

理由

一、本件各請求の趣旨及び理由は、別紙弁護人作成の併合審判請求書、補充書、同(その二)(以上被告人北野宏関係)、関連事件併合請求書(被告人宮〓知子関係)及び検察官作成の各関連事件併合請求書各記載のとおりである。

二、被告人両名に対する当裁判所昭和五五年(わ)第七四号各みのしろ金目的拐取、殺人、死体遺棄被告事件(同年五月一三日起訴、以下富山事件という。)及び右両名に対する長野地方裁判所同年(わ)第七五号各みのしろ金目的拐取、殺人、死体遺棄、拐取者みのしろ金要求被告事件(同年四月二〇日起訴、以下長野事件という。)は、刑事訴訟法九条一項にいう関連事件に該当し、各起訴状記載の各事案の内容に照らせば、実体的真実の究明及び審理の経済的かつ円滑な進行を図るためには、右両事件を併合して審理するのが相当である。

三、ところで、前記各弁護人は、いずれも本件に前記長野事件を併合することを求めているのに対し、検察官は、逆に本件を長野事件に併合するよう求めているので、当裁判所は、この点につき検討した結果、本件に長野事件を併合して審理するのが相当と判断するが、その理由は次のとおりである。

(1) 被告人北野の弁護人の請求理由のうち、被告人北野及びその家族の住居地は富山県下であり、同被告人の母によつて選任された四名の弁護人はいずれも富山市在住であつて、両事件が長野地方裁判所で審理されることとなると、同被告人との接見が困難となり、時間及び費用の両面で多大の負担を強いられるとの点についてみるに、本件のごとき事案にあつては、被告人側に充分なる防禦を尽くさせる必要が痛感されるところ、確かに、本件が長野地方裁判所で併合審理されることとなると弁護人、ひいては被告人がその防禦権を行使するうえで重大な制約を受けるに至るであろうことは推察に難くない。

なお、この点につき、右弁護人らは、まず長野事件の弁護人として選任されたもののごとくであるけれども、仮りにそうだとしても、右弁護人らの申立てによれば、その経緯は長野地方検察庁に対して、被告人北野との接見の具体的指定を受ける必要上一応右のような形をとらざるを得なかつたものであつて、当時、いずれ富山事件が富山地方裁判所に公訴提起されることも予想されていたこともあり、この一事から、同弁護人らがもつぱら長野地方裁判所の審理において弁護活動を行うという意図を有していたと速断するのは早計であるから、この点を本件の判断にあたつてさほど重視することは適切でないと思料する。

また、被告人宮〓の国選弁護人からも弁護活動を実効あらしめるためには、被告人北野の弁護人や被告人宮〓の親族らと打合せするなどの必要もあり、その住居地を管轄する当裁判所において両事件を審理するのが相当である旨の意見が出されている。

(2) 次に検察官の請求理由についてみるに、被告人宮〓が長野地方裁判所における審理を希望しているとの点は、もつぱら、ただ富山を離れたい旨の同被告人の冷静を欠く個人的感情に基づくものであり、しかも、同人作成の当裁判所に対する昭和五五年六月一〇日付上申書によれば、現在では、その弁護人との接見等を通じて、その心情が安定した結果、必ずしも右の感情を固執するものでなく、いずれの裁判所において裁判を受けるかの点については、同被告人の弁護人に一任する心組みを抱くに至つていることが認められる。また、検察官の請求の論拠となつている長野事件は、富山事件に比べて共謀の場所・犯行の場所が長野、群馬、埼玉、東京と広範囲に及んでおり、従つて、長野地方裁判所において審理するのが証人らが出頭するうえで便宜であるとの点につきみても、起訴状記載の公訴事実によれば、犯行場所は長野事件の方が広範囲に及んでいることは認められるけれども、富山事件も富山、岐阜の両県下にまたがつており、拐取者みのしろ金要求の訴因を除けば長野事件とほぼ同様の重大事犯であり、かつ、検察官の主張するような差異の有無は、いまだ審理の始まらぬ現段階においては、本件審理の範囲、方法が予測できないのであるから決定的な重要性を有するものとは到底認め難い。そして、長野事件が先に係属したとの点も、各起訴状によれば、犯行自体はむしろ富山事件が先に敢行されたものであること明白であり、重大性についても前記のとおり両事件でさほどの違いはないものであるから、本件のごとき事案においては、その係属の先後が大きな意味を有するものとはいえない。

以上のとおりで、両事件をいずれの裁判所で審理すべきかを判断するに当つては、検察官の立証活動、裁判所の審理の便宜などのほか、それにも増して裁かれる立場である被告人、弁護人の防禦権行使上の便宜が重視されるべきであると考えられるところ、この点については前述のとおりであり、なお、被告人両名の住居地及びほぼ同程度の重大性を有する両事件のうちの先行した一方の事件の被害者の住居地及び犯罪地がいずれも富山県内であることをも考慮すると、両事件は当裁判所において併合審理するのが相当であり、検察官の請求理由は右のような点からみて、いまだ右判断を左右するほどのものとはいえず、その請求は理由がない。

以上説示したとおり、被告人両名の弁護人からなされた請求はいずれも理由があるから刑事訴訟法八条一項によりこれを認容することとし、他方、右請求と相反する検察官のなした請求はいずれも理由がないというのほかないので、これを却下することとし、主文のとおり決定する。

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